異動を出したとき、正直なところ少し期待していませんか?
- この人なら、きっと流れを変えてくれる
- 新しい立場で、さらに力を発揮してくれるはずだ
本人もやる気がある。
周囲も歓迎している。
スタートは悪くない。
それなのに、数か月後――
- なんとなく噛み合わない
- 前よりまとまりがなくなった気がする
そんな空気が流れ始めることがあります。
実は、こうした状況は珍しいものではありません。
異動がうまくいかないとき、私たちはつい「人選」を疑います。
けれど本当に見直すべきなのは、人ではなく「設計」かもしれません。
異動とは、肩書きを変えることではありません。
期待される役割を変えることです。
役割が曖昧なままでは、どれだけ優秀な人でも力を発揮しきれません。
この記事では、異動で失敗しないために欠かせない「役割定義」の考え方を整理します。
人の問題に見える現象を、構造の問題として捉え直してみましょう。
異動で起きているのは「期待の変化」
異動というと、業務内容の変化に目が向きがちです。
しかし、実際に混乱を生むのは「周囲の期待」が変わることです。
たとえば、営業成績トップの社員を課長に昇進させるケース。
会社は「チーム全体の成果向上」を期待します。
一方で本人は、「自分が数字を作ることが最大の貢献だ」と考えているかもしれません。
どちらも間違っていません。
しかし役割が言語化されていなければ、行動はそろいません。
「売る人」から「育てる人」へ。
この転換が曖昧なままでは、優秀な人ほどこれまでの成功パターンを続けてしまいます。
事例①:トッププレイヤーの昇進失敗

新任マネジャーの移行期に関する調査では、昇進後に期待水準へ到達できず苦戦するケースが多いことが報告されています。
(出典:CEB Leadership Council, “Transitioning to New Manager,” 2005)
典型例として挙げられるのが、トップ営業の昇進です。
プレイヤーとして優秀だった人材をマネジャーに昇進させたところ、自身の売上確保に時間を使い続け、部下育成や仕組みづくりが後回しになってしまう。結果としてチームの成果は伸び悩む。
これは能力不足ではありません。
「売る責任」から「組織成果への責任」への役割転換が明確に整理されていなかったことが本質です。
役割定義とは何か
役割定義とは、「このポジションは何のために存在するのか」を明らかにすることです。
・どこまで意思決定してよいのか
・どこに時間を使うべきなのか
これが曖昧なままでは、異動者は常に手探りになります。
「営業課長」という肩書きだけでは不十分です。
「営業組織の再現性を高める責任者」と言い換えたとき、はじめて優先順位が見えます。
役割が言葉になった瞬間、行動の基準が生まれます。
事例②:役割再設計による品質改革

役割定義の重要性は、組織レベルでも明らかです。
従来の「不具合発生後に対応する部門」から、「開発初期段階から未然防止に関与する部門」へと役割を再設計しています。
(出典:トヨタ自動車「品質改革の取り組み」公式資料、2010年以降の開示情報)
肩書きは同じでも、「何のために存在するのか」を明確にし直したことで、行動の重点が変わりました。
役割が変われば、会議の内容も、意思決定のスピードも変わります。
役割が曖昧な組織で起きること
役割が曖昧なまま異動が行われると、現場では次のようなことが起こります。
・仕事の境界線があいまいになる
・評価基準が見えない
・挑戦よりも無難な行動が増える
異動直後は、誰もが不安を抱えています。
その状態で役割まで曖昧だと、慎重に動くようになり、結果として組織は停滞します。
異動を成功させるために
異動を成功させるために、特別な制度は必要ありません。
- 「このポジションの目的は何か」を一文で言える状態にすること。
- 「最初の半年で何ができていれば成功と言えるか」を具体化すること。
- 着任後、早い段階で期待をすり合わせる対話を持つこと。
役割は、紙に書くだけでは意味がありません。
対話の中で確認し続けることで、初めて機能します。
おわりに
異動でつまずくのは、人の問題ではないことが多いものです。
役割が曖昧なまま、期待だけが先行してしまうからです。
異動とは、人を動かすことではなく、役割を設計し直すこと。
その視点を持つだけで、異動はリスクではなく、組織を進化させる機会に変わります。
成果を分けるのは、人材の質以上に、役割をどこまで明確にできるかにあります。


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